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第2話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― プロローグ その2

決断

走り始めようと思って、あれから2年が経ち

横浜市営地下鉄グリーンライン、日吉駅。俺の住む街の玄関口であるこの駅で、その日、致命的なトラブルに直面していた。

「点検中」

地上へと続く長いエスカレーターの前に、無慈悲なポールが立っている。その横にはそびえ立つ長い階段のみ。たいした段数ではない。以前なら、無意識に登りきっていたはずだ。だが、今の俺は違った。

半分を過ぎたあたりで、太ももから「限界だ」というアラートが鳴り始めた。心臓が早鐘を打つ。荒くなった呼吸でマスクの中が熱気で蒸れてきた。登りきった時には、俺は肩で息をしていた。

たいち
たいち

「ハァ……ハァ……ッ。なんでこんな。。。」

渋谷行きのホームへ向かおうとするが、足が重い。すれ違った女子高生が、怪訝そうな目で俺を一瞥して通り過ぎていく。その視線は明らかに、「なんでこのおじさん、駅の階段ごときで死にかけてるの?」と語っていた。

ショックだった。俺が想定していた「イケてる自分」と、現実の「体力のない中年」の間に、許容できないほどの乖離がある。

そして翌朝、決定的な事件が起きた。

出社のために久々にスーツに袖を通した時のことだ。スラックスを履き、いつもの位置でベルトを締めようとした瞬間、バックルのピンが穴に届かなかった。

たいち
たいち

「……は?昨日までは届いてたじゃないか。」

いや、届かないわけではない。無理やり引っ張れば届く。だが、そうすると腹の肉がベルトの上に乗り、無様な段差を形成してしまう。生地の縮みか?あらゆる外的要因を疑ったが、鏡の中の事実は一つしか答えを示していなかった。

これは一時的な気のせいではない。長年の不摂生と運動不足によるものだ。これをこのまま何もせずに受け入れれば、俺は「太ったおじさん」として生きていくことになる。

俺は静かに息を吐き、ベルトの穴を一つ緩めた。そういえば半年前にも同じようにベルトの穴を緩めたことを思い出した。

かろうじて保っているスタイルを維持するためには運動を始めなければならないのか。2年前に走ることをやめたことを思い出した。

このままではマズい。またこのまま何もせずにいたら、半年後にまたベルトを緩めることになる。

しかし、いつ、どうやって走ろうか。

そうだ、金曜日の22時ぐらいだったら、あんまり人もいないだろう。そう思って週末の夜にランニングをすることを密かに決意をした。


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