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第4話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第一章:初期投資と物理的障壁 その2

痛みという名のエラーログ

――時が止まった気がした。

年齢は、おそらく俺と同じ40代半ば。だが、すぐに私と違うと感じてしまった。身体にフィットした黒いインナーに白いランニングウェア。手首には、青白く光る液晶画面を持つスマートウォッチと腕にはLEDのライト。そして足元には、鮮やかなネオンカラーの厚底シューズ。

何より衝撃だったのは、彼の表情だ。苦悶の色など微塵もない。涼しい顔で、しかし俺の倍以上のスピードで、風のように走り去っていった。残されたのは、汗だくで立ち尽くす俺の荒い息遣いだけ。

私は思わず足を止め、遠ざかるその背中を見送った。

同じ人間か? 同じ40代か?俺は膝に手をつき、遠ざかる背中を見送った。悔しさというよりは、純粋な驚きだった。あんな風に走れたら、どんなに気分がいいだろう。今の俺のような「苦行」ではなく、あれこそが本来の「ランニング」なのだろう。

その夜、俺は痛む足を引きずって帰宅した。3日間走った感想は「ただ辛いだけ」。明日走ることが少し憂鬱になってしまった。俺の脳裏には、颯爽と走るあのランナーのネオンカラーのシューズの残像が焼き付いて離れなかった。

 *

翌朝、膝には明確な異変が起きていた。歩くたびに、膝の奥がきしむような嫌な鈍痛。3日間の無理がたたったのだ。

結局その日は走ることを諦めてしまった。普通ならここで「やっぱり自分には無理だったんだ」と諦めるところかもしれない。だが、私は湿布を貼った足でリビングのソファに座り、パソコンを開いた。

検索窓には 『ランニング 膝痛 原因』 『スニーカー ランニングシューズ 違い』

表示された検索結果の1ページ目には、まるで俺のために書かれたかのような記事が並んでいた。

『初心者が陥る罠! 普通のスニーカーで走ってはいけない理由』 『膝の痛みはクッション不足が原因? 厚底シューズで劇的に変わる!』 『衝撃吸収は、技術(テクノロジー)で解決できる』

たいち
たいち

……なるほど。俺は記事を読み進めるうちに、膝が痛くなってしまった理由がだんだんわかってきた。街歩き用の硬いソールで3日も走れば、膝が壊れるのは物理的に当然だよなぁ。

俺はAmazonのアプリを開いた。検索ワードは『ランニングシューズ 厚底 初心者 おすすめ』。色とりどりのデザイン。そして「雲の上のようなクッション性」「着地衝撃を吸収」という魅力的なキャッチコピー。いつも履いているスニーカーに比べて、安くはない。だが、この金額で「膝の痛み」とおさらばできるなら。

私は、有名なスポーツブランドの、特にクッション性が高いと評判のモデルを選んだ。色は、ベーシックな色の黒。

俺は迷いなく『カートに入れる』ボタンをタップした。注文確定の画面を見つめながら、これで膝の痛みから解放されるなら安いものだ。それに、あんな本格的な靴を買ってしまったら、もう走らないわけにはいかない。

届くのは明後日。私は膝をさすりながら、新しい相棒が来るのを心待ちにして眠りについた。

それが、大いなる勘違いであることに気づくのは、もう少し先の話だ。

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