たいち

健康のためにランニングを始めました。

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2026/1/24

第12話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第四章:環境変化への適応(夏用装備の導入) その3

装備のアップグレード 帰宅した私は、濡れたTシャツを脱ぎ捨て(その異常な重さに改めて驚愕した)、シャワーで汗を流してからパソコンに向かった。  検索ワードは『ランニングウェア 夏 涼しい』『ランニング スマホ 揺れない』。  画面には、「吸汗速乾」「ドライ機能」を謳うポリエステル製のウェアが並んでいた。その時、私はある商品画像に目が釘付けになった。  体にピタリとフィットする、黒いインナーシャツ。「コンプレッションウェア」と書いてある。  記憶がフラッシュバックする。  2ヶ月前、私が初めて走り出した夜に ...

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2026/1/24

第11話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第四章:環境変化への適応(夏用装備の導入) その2

Tシャツの限界 不快指数は限界を突破していた。原因は暑さだけではない。  汗が止まらない。滝のように吹き出す汗を、私の愛用するTシャツは、その全てを律儀に吸い込んでいった。吸水性が良い、というのは普段なら褒め言葉だ。だが、この湿気の中では致命的だった。  水分をたっぷりと含んだTシャツは、濡れた雑巾のように重くなり、肌にべったりと張り付く。通気性は皆無。走るたびに、重くなった生地がドサッ、ドサッと体を叩く。さらに、スウェットのポケットに入れたスマートフォンが、湿った生地の中で振り子のように暴れ回る。  ド ...

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2026/1/24

第10話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第四章:環境変化への適応(夏用装備の導入)その1

エンジンの熱暴走 6月の下旬。私のランニング生活は順調そのものだった。「頑張らなくていい」というLSDは、私の性格に合致していたし、少しずつ引き締まってきた体は自信を与えてくれた。  だが、私は甘く見ていた。四季のある日本において、ランナーにとっての最大の敵が、すぐそこまで迫っていることを。 梅雨入りと同時に、空気は一変した。夜になっても気温が下がらない。湿度は不快なほど高い。玄関を出た瞬間に、まとわりつくような熱気を感じる。まるでサウナの中を歩いているようだ。  それでも私は、「継続こそ力なり」と自分に ...

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2026/1/24

第9話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第三章:低負荷運用への切り替え(LSD理論の実践) その3

数字が証明する勝利 気づけば、私は30分以上走り続けていた。一度も歩くことなく、一度も立ち止まることなく。  家の前に戻ってきて、時計の停止ボタンを押す。  サマリー画面を確認する。距離は3キロちょっと。ペースは「キロ9分」。以前の私なら「遅すぎる」と絶望していただろう数字だ。  だが、私は別の数字を見てニヤリと笑った。心拍数のグラフだ。最初から最後まで、低い位置で安定して推移している。一度もレッドゾーンに入っていない。  汗は心地よい程度。膝の痛みもない。何より、「明日もまた走りたい」と思えている自分が ...

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2026/1/24

第7話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第三章:低負荷運用への切り替え(LSD理論の実践) その1

急がば回れのロジック 動画の中のコーチは、穏やかな口調で語りかけてきた。 「皆さん、毎回ゼーゼーハーハー言うまで追い込んでいませんか? 実はそれ、逆効果なんです」  ドキリとした。画面の向こうから見透かされているようだ。  コーチは続ける。  基礎体力がない状態でスピード練習をしても、怪我のリスクが高まるだけ。  まずは「おしゃべりができるくらいのゆっくりしたペース」で長く走ること。  そうすることで毛細血管が増え、全身に酸素を運ぶ能力――いわば、体のエンジンの排気量そのものが大きくなるのだという。 「こ ...

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2026/1/24

第8話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第三章:低負荷運用への切り替え(LSD理論の実践) その2

ゆっくりな勇気 走り出してすぐ、私は強烈な違和感に襲われた。  意識して、歩幅を小さくする。厚底シューズのせいもあって、足もまだ疲れていない。ついスピードが出そうになるのを、あえて抑え込む。動画で言っていた「ニコニコペース」。笑顔でおしゃべりができる速度。それは、私の感覚で言えば「ほとんど歩いているのと変わらない」速度だった。  その時だ。背後から「チリンチリン」という音が聞こえた。ママチャリに乗ったおばあちゃんが、私をゆっくりと追い越していく。  以前の私なら、屈辱を感じていたかもしれない。  「ランニ ...

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2026/1/23

第6話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第二章:数値化の罠と暴走 その2

データの罠  GPSウォッチが届いたのは、それから二日後のことだった。  黒いマットな質感の箱。中には、無駄な装飾のないシンプルな黒い時計が鎮座している。  私はそれを恭しく取り出し、左手首に巻いた。  鏡の前で腕を上げてみる。手首にあるその時計と、玄関にある厚底のシューズだけを見れば、私はもう立派な「市民ランナー」だ。設定を済ませ、充電も完了。準備は整った。これで私の努力はすべて数値化され、可視化される。  その夜、私は意気揚々と外へ出た。シューズの紐をきつく締め、時計のボタンを押す。『GPS捕捉完了』 ...

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2026/1/23

第5話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第二章:数値化の罠と暴走 その1

魔法の靴と、禁断の果実 日曜日。待ちに待ったその荷物は、夕方の配送で届いた。無機質な段ボールを開けると、真新しい靴箱が現れる。蓋を開けた瞬間、独特の新しいゴムの匂いが鼻をくすぐった。  手に取ってみて、そのボリューム感に驚いた。指でソールを押すと、グニッとした確かな弾力が返ってくる。  街歩き用のスニーカーとは、もはや別の工業製品だ。  私は居ても立ってもいられなくなり、玄関で紐を通し始めた。足を入れる。  包み込まれるようなフィット感。立ち上がってみると、フワフワとした不思議な感覚に襲われた。 私はTシ ...

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2026/1/23

第4話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第一章:初期投資と物理的障壁 その2

痛みという名のエラーログ ――時が止まった気がした。 年齢は、おそらく俺と同じ40代半ば。だが、すぐに私と違うと感じてしまった。身体にフィットした黒いインナーに白いランニングウェア。手首には、青白く光る液晶画面を持つスマートウォッチと腕にはLEDのライト。そして足元には、鮮やかなネオンカラーの厚底シューズ。 何より衝撃だったのは、彼の表情だ。苦悶の色など微塵もない。涼しい顔で、しかし俺の倍以上のスピードで、風のように走り去っていった。残されたのは、汗だくで立ち尽くす俺の荒い息遣いだけ。 私は思わず足を止め ...

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2026/1/23

第3話 ランニング・ロジック ―45歳PM、走る趣味を実装する― 第一章:初期投資と物理的障壁 その1

第3話:衝撃と衝動 4月某日の金曜日、仕事が終わって、夕飯も食べ終わった22時に俺は初めてのランニングの準備を始めた。 なぜこんな時間かと言えば、答えは単純だ。リスクヘッジである。 うかつに休日の昼間や夕方に走ると、近所の顔見知りに遭遇する確率は極めて高い。一生懸命走っている姿など見られたくない。もし三日坊主で終わった場合、「最近走ってないわね」などと噂されるのは御免だ。だからこその深夜帯。 トップスは黒いTシャツ。ボトムスはスウェットパンツ。そして足元は、いくつかある靴の中からチョイスした走れそうな街歩 ...